ご挨拶

後援会会長の就任にあたって

久城 育夫 

この度私は小石川植物園後援会の会長を仰せつかりました。私の専門分野は地球科学です。地球科学は植物の生育する場も取り扱うということで植物に多少関係があるわけですが,私のこれまでの研究は地球の深い部分の現象や植物の全く存在しない月に関するもので植物に殆ど関係ありません。また私は植物の知識にも乏しく,後援会の会長の大役を努めるには大変心もとなく思っております。しかし私はこれまで約60年の間,何かと植物園に関わらせていただいており,植物園の大切さを身を持って強く感じておりますので,出来る限り努力を致したく思っております。

植物園は今更言うまでもなく植物学の教育・研究の上からもまた社会的な面からも非常に重要な存在です。特に近年,地球環境の変動の為に地球上の多くの植物種が絶滅の危機に瀕していると聞きますが,植物園はそれらを含めた植物の系統保存および植生維持のためにも重要な役割を果たしており,今後ますますその重要さが増すと考えられます。植物園はまた,庶民が種々の植物に接し,それらを観察し鑑賞する為の大切な場所です。特に小石川植物園のように大都会の真中にある植物園は庶民が植物に接するための,また憩いの場所として極めて重要な存在です。最近は都心に多くの高層ビルやマンションが建設され,ますます無機的な空間が広がりつつあります。東京大学のキャンパスにおいてさえもその傾向が見られます。このような状況は今後も進むことが予想され,多くの木々や草花を有する本植物園の重要さはこれから一層増大すると思われます。私は現在,本植物園に面した建物に住んでおり,四季折々の木々を眺めて楽しんでいます。また木々の間を散策する人々も見ますが,それらの人々は木々や草花を真に楽しみながら歩いており,街中を歩いているときとは全く違って本当にリラックスしているようです。時には小学校や幼稚園の子供達が大勢来て,木々の周りで楽しそうに遊んだり木の幹に耳をつけて何かを聞いていたりしています。そのような様子を見ると本植物園が人々にとって如何に大切かということがよく分かります。私も小学生の頃に植物園に近い曙町に住み西片町の小学校に通っていたこともあり,放課後に友達と遊びに,また日曜日には家族でよく植物園に来て楽しませてもらいました。もっともその頃は植物よりも池のオタマジャクシや他の動物の方に興味がありましたが。理学部の学生や教官の間は時折植物園をおとずれ頭を休めたり考えごとをしたりしました。一時理学部の運営に関わっていた時期には,植物園のご要望により当時事務長をされていた大六さんと温室その他の整備に関わったことも記憶に残っています。理学部恒例の春の集いは植物園の一部をお借りして毎年行われますが,教官と学生さらには名誉教授の方々が木々の下で楽しく語り合う貴重な一時を与えてくれます。

植物園は理学系研究科・理学部および東京大学の宝であるのみならず,わが国の宝でもあります。この植物園を今後とも,学術のため,また庶民のためにも,最上の状態で保っていかなければなりません。本後援会がそのために役立つよう微力を尽くしたいと思います。皆様方のご支援とご協力をよろしくお願い致します。

(くしろ いくお 東京大学名誉教授)