連載:世界の植物園3

ボゴール植物園

邑田 仁 


ヨウラクボク

ボゴール植物園はインドネシアのジャワ島西部にあり、首都ジャカルタから高速道路を使って南下すること1時間以内で到着する。1817年にオランダの植物学者ラインワートにより設立された、インドネシアでもっとも古い歴史をもち、熱帯アジアを代表する植物園の一つで、ボゴールの中心にある。週末ともなると園内外とも観光客で賑わう。ボゴールがまだブイテンゾルグと呼ばれていた1944年から1946年にかけては、小石川植物園の園長も務めた中井猛之進博士が園長であった。また、小石川の研究室でシダ植物を研究し東京大学の学位を取得したデディ・ダルナエディ博士が最近数年にわたって園長を務めていたこともあり、植物園の関係者にとってとても親しみ深い植物園でもある。いくつかの植物園からなるインドネシア植物園という大きな組織の本園として位置づけられている。設立当初は海外から導入される有用植物の試験栽培を主な目的としていたが、すぐ近くにある植物標本館Herbarium Bogorienseと一体となって研究植物園の機能も果たしてきた。栽培される植物のほとんどすべての証拠標本はHerbarium Bogorienseに収容されているという。


カナリアノキの並木

面積は大統領宮殿の庭園部分を除き87ヘクタール。有料公開しており、車に乗ったまま園内を巡ることもできる。海抜は260mあり、ジャカルタよりは過ごしやすい。ほとんどの入園者は公園としての利用を目的としており、暑い日差しを避けて園内のあちこちで散歩したり休憩したりしている。また花を観賞するための観光施設でもある。広大な庭園のため、一巡りするのも容易ではないが、急いで巡ればソーセージノキ、ヒスイカズラ、ヨウラクボク(Amherstia nobilis)、 緋色の花房をつけるつる植物ニューギニアクリーパー(Mucuna bennetti)、 池の水面に葉を浮かべるネッタイスイレンやビクトリアオオオニバス(Victoria amazonica)など有名な鑑賞植物にまず目がいく。しかし、よく見れば見るほど味わいのある奥深い植物園でもある。2001年の植物目録によれば212科1242属3383種の植物が栽培されており、そのほかに未同定のコレクション1830点があるということである。熱帯植物の保存庫としての機能はたいへん充実しており、熱帯多雨林の植物がまんべんなく収集されていて、研究のために必要な熱帯植物(特に木本植物)を探す時はまず真っ先にボゴールの植物リストを見ることにしている。30年ほど前に初めてボゴールの町を訪れた時は、ベモと呼ばれる軽のオート三輪が自転車を利用した人力車と一緒にぐるぐる走り回っていた。植物園の正門付近から町中にかけて、果物や民芸品をはじめ様々な熱帯の産物を売るストリートマーケットと人であふれ返っていたことを思い出す。その後、幾度か足を運ぶうちにベモは乗り合いの4輪自動車に変わったが、人力車は相変わらず人を運んでいる。このように人なつこいボゴールもここ数年で急速に変わりつつあると聞いており、ここに書く情報や写真はいささか古いものであることをお許しいただきたい。


ハネフクベの果実。下向きに口が開いている

ハネフクベの種子

ヒトデカズラ
大きな門であるために近くではかえって地味な感じのする正門を入ると、正面の道は樹齢100 年以上のカナリアノキ(Canarium)の並木になっており、板根に支えられた高さ30メートルを超える樹幹には、アジア産のハブカズラや熱帯アメリカ産のPhilodendronなどのつる性のサトイモ科植物がよじ登り、たれ下がっている。また、世界一大きいラン科植物といわれるGrammatophyllum speciosumが着生している。道の右手は熱帯スイレンが咲き誇る池になっており、そのまま進むと宮殿に達する。

正門からまっすぐ進まず、左に折れるとヒスイカズラの棚をくぐる。この道の左側はオフィスの区画になっており、その一角にゲストハウスがある。玄関脇には大きなヒトデカズラ(Philodendron selloum)が立っている。昔はこの近くに熱帯オオコウモリが集まる大木があり、ゲストハウスに宿泊すると、昼間はぶら下がって眠っているコウモリが夕方一斉に飛び出すのを見ることができた。その木は枯れてしまい、コウモリの群れは別の場所に移っているという。道の反対側には日陰に生えるサトイモ科などの単子葉植物やウマノスズクサ科、コショウ科などの草本、灌木を集めた標本園があり、非常に蚊が多いが興味深い一角である。その臭いからブンガバンカイ(死の花)と呼ばれるショクダイオオコンニャクもこの付近に植えられている。この標本園の奥などの高い木にはハネフクベと呼ばれるウリ科のつるAlsomitra macrocarpaがよじ登っており、ハンドボールくらいの果実が熟すと中から羽根のある薄い種子が飛び出して滑空するのを見ることができる。


夕方になり、木から飛び立つオオコウモリの群れ(園内)
正門から右に折れる道はやや開けた樹木園の下を通っている。そのまま行けばやはり宮殿に達するが、奥に進まず、途中で赤い葉鞘が目立つショウジョウヤシ(Cyrtostachys renda)の茂みがあるあたりから右に折れると右手に橋がある。橋を渡らずに直進すると川沿いの道となり、フタバガキ科などの大木のあるエリアに至る。このあたりから赤いつり橋(2カ所ある)を渡って右手に進むこともできる。奥のつり橋付近の川岸にはニューギニアクリーパーがからんでいる。

ショウジョウヤシの植え込みに近いコンクリートの橋を渡るとDilleniaやヨウラクボクが見られる。その先の開けたところにはオオオニバスの浮かぶ池があり、左手は水生植物園になっている。その先はややくぼんで開けた芝地になっており、季節になるとパンノキの綿毛が雪のように降り注ぐ。突き当たり付近にはもう一つのゲストハウスがあり、付近にはニューギニアクリーパーの棚がある。突き当たりを左に進むと新しい温室がある。この温室はシンガポール植物園の温室に負けないものが欲しいというメガワティ大統領の肝煎りでトントン拍子に実現したもので、周囲とは対照的な現代的な建物とラン等の熱帯植物のコレクションは植物園の目玉になっているという。


ボゴール植物園植栽区画図(2001年の植物目録から)〔→拡大図

橋のかかっている川(Ciliwung川)は水量もそれほど多くはなく、ゴミだらけの汚い川である。しかし加藤雅啓博士はこの川の下流で水生植物カワゴケソウを採集し、渓流環境に完全に適応しており絶滅しやすいこの植物が生き残っていることに驚嘆していた(園内にもあるという)。それは、人々の暮らしがすっかり現代化しつつあるボゴールに昔からの人情や風情が色濃く残っていることとなぜかオーバーラップする。また、近くには自然が残されたサラク山、ゲデー山(麓にはチボダス植物園)がある。ぜひ一度ボゴールに滞在されることをお勧めしたい。

(むらたじん 植物園園長)