分類標本園について

出野貴仁 

小石川植物園の分類標本園は、正門を入って坂道を上り切った先、桜並木の奥の方にあります。メインの通路からは離れていますが、熱心な方はメモやカメラを片手に、ずいぶん長い時間をここで過ごされます。そんな分類標本園の魅力とは何でしょうか?たぶんそれは、「生きた植物図鑑」であることだと思います。分類標本園では売店の近くの入り口から、養生所の井戸の方向に、シダ植物、裸子植物、被子植物(双子葉植物、単子葉植物)の様々な科を代表する植物がエングラーの分類体系に従って植えられています。ここを一回りすれば、「どの植物とどの植物が近い種類なのか、また遠い種類なのか?」を実地に理解できるのです。

私は小石川植物園に赴任してから3年半の間、分類標本園を担当してきました。園内の植物を管理する育成部では、分類標本園を植物全般と栽培方法についての教育の場として位置付け、代々「新人」が担当することになっているのです。しかし、私は栽培については素人同然でこの仕事に就いたので、様々な苦労や失敗を経験することになりました。この項では新米技官の目から見た分類園の見所や魅力を、自分自身の失敗や苦労などを織り交ぜながら紹介したいと思います。

先に述べたように、分類標本園は「生きた植物図鑑」です。理想的には世界中の全ての代表的な植物をここでお見せできれば良いのですが、植物の生育環境が違うため、また、栽培面積が限られているため不可能です。そこで、様々な科から代表的な属を選び、ここで栽培できるものだけを植栽しています。分類標本園自体は、来園者の方々が簡単に観察できるよう日当たりの良い開けた平地に位置しています。しかし植栽している植物の中には、林下を好む種類や湿った土を好む種類もあり(例えば早春に咲くフクジュソウなど)、遮光や敷き藁などの特別な配慮が必要になります。機会があったら私たちの工夫にもご注目下さい。

私はこれまでに、分類標本園で栽培されている植物を、いかに最適な状態に保つかという点で苦心してきました。植替えをして施肥をしたり、剪定をしたり、土を入れ替えたりすることにより、植物自身も答えを出してくれます。このようなことは、どれをとっても植物栽培の基本なのですが、この仕事に就いた頃の私は栽培については素人同然でしたので、それが良い方ばかりに行くとは限らず、あらゆる失敗を繰り返しました。例えば、肥料のやり過ぎのために植栽植物よりも、周りの雑草の生育が良くなって除草が追いつかなくなり、どれが栽培している植物なのかわからなくなったこともありました。挙句の果てに、植栽植物自身が被圧されて枯れてしてしまう始末でした。また、強く剪定しすぎて花芽まで落としてしまい、花を咲かせることができなかったりもしました。また、梅雨の雨を期待して植替えをしたものの空梅雨になり、水切れをおこして枯らしてしまったりもしました。近年の夏の暑さでは、育つものも育たず、対応に苦慮しているところです。除草作業については、現在では4グループ(年間延べ300名ほど)のボランティアの方々に協力して頂いているので、以前よりも整備された分類標本園がご覧になれると思います。

分類標本園では、植物の様々な部分を観察できるという点にも注意を払っています。樹木については、かなり背が高くなり、幹も太くなりすぎる種類もあります。そのような種類では、積極的に植替えを行おうと考えました。例えばクリは、以前は大きいばかりで剪定しても枝が出るだけで、花は咲きませんでした。ところが、今年は思い切って昨年春に根株ごと掘り出し、鉢植えにあった苗を植えたところ、花が咲き、実も着きました。クリの「いが」が危ないかもしれませんが、観察にはちょうど良い高さです(今年は終わったので、来年期待してください)。私自身、うまく行き過ぎて感激してしまいました。

また、一般に「雑草」と言われる植物たちにもれっきとした名前があります。分類標本園では、そのような植物にもラベルを立てて栽培しています。特に、イネ科植物の集まった箇所では、本当に雑草としか思えないような種類が並んでいます。私が担当した当時は芝生のみの場所でしたが、園内から、自宅の近所から、またちょっと出掛けた先から拝借(採取)したものを、どこが違うのか調べながら、今あるイネ科植物の箇所に植栽してきました。興味のある方は、ぜひご覧ください。

四苦八苦しながら3年半が経過し、先生方や育成部の職員の方々に協力して頂き、これまでに多くの植物を植栽してきました。「分類標本園」の名称にふさわしい形に近づきつつあると、私自身思っています。それでも枯れてしまったり、植栽予定の植物が手に入らなかったりで、植栽箇所の全てに植えるまでには至っていません。全てを植栽すると526種の植物が揃うことになりますが、現在では全体の約95%、506種が植栽されています。先輩方の話によれば、今までに100%に達したことはないといいます。これからも、雑草と格闘しながら、目標の526種植栽」に向けてがんばります。

(いでのたかひと 小石川植物園技官)