日光分園の花暦

長嶋寿江 

日光分園の Web ページ(http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/frame/nikko/NikkoBG.html)を作るにあたり、花暦(次頁を作らせていただきました。園内にある植物はこれだけではありませんが、ご来園の参考にしていただければ幸いです。なお、この花暦は、気温が平年並であった2000年のもので、今年は気温が高いため、今のところ2-3週間ほど開花が早めです。

ここで、日光分園の一年をざっと振り返ってみます。開園したての4月中旬は、池ではミズバショウの花が全盛期を迎えています。この頃、枯れ木色の山肌の所々が、コブシの白やアカヤシオのピンクで染まり、冬の風景の中そこだけに春が訪れているような、早春独特の風情が楽しめます。アカヤシオは、もしかしたら皆様にあまり馴染みがないかもしれませんが、日光周辺ではよくみられるピンク色の花をもつツツジです。日光の春祭りでは山車にこの花を模した飾り付けをするので、日光の春の象徴と言ってよいかもしれません。この頃は、まだ明け方の気温が氷点下になることがしばしばあり、そのせいか、落葉樹はまだ出葉しません。そのため、花だけが枝先にあり、よく目立ちます。一方、林床にも春の訪れが見られます。枯葉を押しのけて、繊細な薄い白い花びらのアズマイチゲやキクザキイチゲ、うすむらさき色のカタクリが束の間の姿を現します。これらは、上を覆う木々にまだ葉がなく日当たりのいい時期に、短期集中して成長と繁殖を行い、残りの環境の悪い期間は、地上部を回収して球根の形でひっそりと地中で過ごします。このようなはかない植物は、春の短命植物(スプリング・エフィメラル)と呼ばれています。

日光は、東京の小石川植物園よりおよそ1ヶ月ほど開花が遅いようで、平年並の気温ですと、ゴールデンウィークの少し前にようやくサクラ類が満開を迎えます。そしてゴールデンウィークには、アズマシャクナゲやミツバツツジなどの各種のツツジの仲間が咲き誇り、一年のうちで最も華やかな季節となります。この頃になると、落葉樹の葉が展葉しはじめ、枯れ木色だった風景が萌黄色にけむり始めます。林床も緑に覆われていきます。鳥たちも繁殖期に入るのか、様々なさえずりが聞かれるようになり、春全開といったところです。なお、今年、敬宮様のお印となって一躍有名になったシロヤシオ(ゴヨウツツジ)は、平年ですと、ゴールデンウィークの後、5月上旬に、新緑の葉とともに清楚な白い花を咲かせます。ご存じのように、日光分園では、サクラ属、ツツジ属のコレクションに力をいれており、数多くの種の花を一度に見ることができます。また、ハンカチノキは5月下旬に開花します。

アズマシャクナゲ

葉が生い茂る5月下旬から6月になると、これといった目立つ花をつける木々は見られなくなるのですが、下の方に目を向けますと、水辺ではサクラソウの仲間のクリンソウ、アヤメ類、日当たりのよい開けた所ではシモツケのピンクの花が楽しめます。7-8月以降は、深山に稀にしかみられないキレンゲショウマや、兜の形の青紫の花を数多くつけるヤマトリカブト、細かい白い花を穂状につけるサラシナショウマなどの草本の花を楽しむことができます。こうしてみますと、木本の派手な開花は、春先のまだ葉があまりない時期に多い傾向があるような気がします。花は、花粉を運んでもらう昆虫を惹きつけるために進化したと考えられていますが、おそらく、視覚によって虫を惹きつける戦略は、高木では葉が多くなるとあまり有効ではなくなるのかもしれません。とすると、花見はやはり春先に限られる、ということになるのでしょうか。

草本を含め見てみますと、各種の開花時期は短くても、それらが少しずつ重なることによって、開園期間中はほぼ常に何らかの花が咲いていることがわかります。ある種の開花時期がどうしてその時期なのか、生理学的には、日長や気温がその決定に大きく関与することが明らかになっていますが、進化の過程でどうしてその時期になったのか、進化生態学的にはまだわからないことが少なくありません。ひとつの説明としては、送粉昆虫の取り合いがあります。同じ時期に多数の種がいっぺんに開花すると、送粉昆虫が不足したり、他種の花粉が運ばれてきたりと、送粉・受粉効率が悪くなってしまいます。それを避けるため、少しずつ開花時期がずれる、ということです。

最後に、ほとんど開花がみられなくなる10月の終わりから11月の始め、日光分園では一年のフィナーレを飾る紅葉を迎えます。園内にはカエデ属の多くの種が集められておりますが、それらの葉がほぼ一斉に、黄色、サーモンピンク、紅色と、色を変えます。そして、11月末、ほとんどが落葉した後、閉園させていただいております。

(ながしまひさえ 日光分園助手)