ナンテンハギとその近縁種の分類

昔東姙

マメ科ソラマメ属(Vicia)は多年生草本からなる属であり、北半球と南半球の温帯域に 分布する。Kupicha(1976)によると、ソラマメ属は2亜属、22節、約140種に分類され る。ソラマメ属の植物は、偶数羽状複葉を持ち、ほとんどの種では小葉が4対以上であ る。しかし、Vicilla節に含まれる多くの種のうち、ナンテンハギ( V. unijuga A. Braun)、ミヤマタニワタシ(V. bifolia Nakai)、V. linearifolia Y. Leeの3種は、小葉がただ一対であるという特徴を持っており、互いに近縁 と考えられてきた。そこで、この一対の小葉を持つ分類群、ナンテンハギとその近縁種を 紹介しよう。

ナンテンハギはシベリア東部から中国、モンゴル、サハリン、韓国、日本にかけて東ア ジア全般に広く分布しており、花は青紫色で腋性の総状花序につく。苞は線形で長さ約1 mm。開花前に落ちるのが特徴である。ナンテンハギに分類される種の中には、様々な変 異が見られ、地域ごとに多くの種内分類群が知られている。

ナンテンハギ (Vicia unijuga A. Braun)
韓国名は(Nabi:蝶、Namul:草)。葉の形が蝶が羽を広げた姿に似ていることから名付けられた。中国名は歪頭菜。牧草、緑肥、カバープランツ、薬用などに用いられる。(全羅南道白雲山で撮影)

まず小葉の形態に注目しよう。ナンテンハギの小葉はふつう狭卵形だが、卵形から線形 に至るまで形と大きさの変異が著しい。そのうち、細長い小葉をもつものの多くが、変種 として記載されてきた。日本では牧野(1908)によって、線形の葉を持つ フジガエソウ(var. angustifolia Makino)が記載された。その後、中井(1923)は、韓国の全南 産の植物について、披針形の葉を持つという特徴に基づいて、 var. angustifolia Nakaiを記載した。また、九州地方に分布し、細い葉を持 つクマガワナンテンハギ(var. austro-higoensis (Honda) Sugimoto)が、Honda(1939)によって記載された。 以上、小葉の形態に基づいて区別された3変種で、小葉の長さと幅の変異を、ナンテンハギも含めて 統計学的に解析した結果、フジガエソウだけが葉の幅で区別できることがわかった。従来 より葉の形で分けられてきたクマガワナンテンハギとvar. angustifoliaは、ナンテンハギと変異の幅が重なっており、独立の分類群とし て区別することは困難であった。

さらに、ナンテンハギには、葉の大きさと形、花序の長さ、花色によって、10以上もの さまざまな種内分類群が認識されてきた。そのうち、 V. unijuga var. kaussanensis L思eilleは、1913年に韓国の斎州島で発見された固有分類群であり、植物体が小形で葉の長さ (15.7±4.6mm)と幅(9.3±2.8mm)が非常に小さいという点でナンテンハギと区別 できる。V. unijuga var. apoda Maxim.は、Maximowicz(1873)により満州の植物に基 づいて記載された変種である。原記載によれば、ナンテンハギとの区別点は、花序の長さ が非常に短いこと、がく裂片が長いことという2点であった。ところがその後、 var. apodaは、なぜか花序の長さが短いというだけの形 質で区別されるようになり、混乱が生じた。そこで、がく筒とがく裂片の長さを計測し、 統計学的な解析を行った結果、var. apodaは、花序の長さだけではナンテンハギの変異の中 に含まれるため区別できないが、がく裂片の長さでは、他のものから明瞭に区別できるこ とが分かった。さらに、これまで見られていない他の形質についても比較を行ったとこ ろ、托葉が円形であること、がくに毛が多いことでも、他者から容易に区別できた。この ように、var. apodaはナンテンハギの種内変異の範囲から著しく逸脱するので、独立種とし て認め得る。恐らく、韓国の北部で記載された、V. ohwiana Hosokawa(1933)と同じものであろうと考えているが 、最終的な判断はは、両者のタイプ標本の比較を待たねばなら ない。この他、白花の品種であるf. albifloraが、韓国東部と中国に分布している。

次に、種レベルで認識されている分類群に注目しよう。 V. linearifolia Y. Leeはナンテンハギと同じく一対の小葉をもち、Lee(1982)により韓国東部 Kaebangsanで報告された種である。原記載では、ナンテンハギの 葉の狭いものと似ているが、小葉がたいへん細く、先端が尖るという特徴で、別種として 報告されている。しかし、V. linearifoliaの葉の長さと幅の変異は、フジガエソウの変異の 幅に重なっており、独立した種として区別するのは困難である。そのため、フジガエソウ と同じく変種レベルで扱うべきだろうと考えている。このことは、後述の核DNAのITS領域を用いた比較からも支持される。

ナンテンハギと同じく1対の葉を持つもう一つの種、ミヤマタニワタシ V. bifolia Nakaiは、日本の本州中部に分布している。外形がよく似ているため、ナンテンハギの変種とさ れたこともあるが、地下に走出枝があり、卵形で宿存性の苞をもっているという点でナン テンハギとは明瞭に区別され、現在では別種として扱われている。ミヤマタニワタシと V. linearifoliaは小葉が一対であるという形態的特徴により、ナンテンハギと最も近縁な種で あると考えられてきた。ところが、これら3種の系統関係を核DNAのITS領域の塩基配 列を用いて推定した結果、一対の小葉を持つナンテンハギとミヤマタニワタシは、二対以 上の小葉を持つ別の2種と、それぞれが単系統になった。この結果は、ナンテンハギとミ ヤマタニワタシを別種として扱うことを支持している。また、両者が単系統ではないこと から、一対の小葉の起源は単一ではないと考えられる。一方、 V. linearifoliaと韓国のナンテンハギとの間には、塩基配列に全く違いが 見られなかった。韓国のナンテンハギと日本のナンテンハギの間には2塩基の違いが見ら れること、var. kaussanensisはそのどちらとも2塩基異なっていることを考えると、 V. linearifoliaは変種レベルで区別するのが適当であろう。

最後に、ナンテンハギについて研究している間に、新分類群をモンゴルと中国で見つけ た。これは、鋸歯のある宿存性の苞を持つという特徴で、ナンテンハギから明瞭に区別で きる。また、新分類群と同じく宿存性の苞を持つミヤマタニワタシとは、苞や托葉の形、 花序の長さにおいて区別できる。

これまで紹介してきたように、ナンテンハギには様々な種内変異が見られること、特徴 的な一対の小葉は、ソラマメ属では一回起源では無いことが分かってきた。今後もこれら の分化の実態について、各地の集団を用いて明らかにして行きたい。

(そくどんいむ:小石川本園大学院生)